お客様インタビュー – 京丹後市様

「こんなにも話したいことがあったのか」―― 半年で900件のSOSが教えてくれた、匿名相談という「心の居場所」

京丹後市では、子どもたちのいじめ予防やSOSの早期把握を目的に、匿名報告相談アプリ「STANDBY」を令和6年度より導入し、相談対応に当たっています。導入前後の比較から見えてきた子どもたちの実態や、相談対応における課題、そして今後の展望について、担当である京丹後市教育員会事務局学校教育課 片柳さんにお話を伺いました。

導入の背景と目的:気軽に相談できる「窓口」の開設 

ーー スタンドバイ小池(以下、小池):アプリ「STANDBY」導入前、子どもたちからのSOS把握においてどのような課題を感じていましたか?

京丹後市教育員会 片柳さん(以下、片柳):アプリ「STANDBY」の導入以前にも電話相談やLINE相談に取り組んでいましたが、電話相談は10年間でわずか1件、LINE相談については3年間の取り組みの中で最大でも年間30件程度にとどまっていました。
電話相談は子どもたちにとってかなり敷居が高く、LINE相談は「友達登録(※1)」という壁が大きかったため、相談窓口としての機能を十分に果たせていないのではないかという反省がありました。LINE相談は電話相談が少なすぎることから始めた事業でしたが、それでも子どもたちからの反応は薄く、何か別の手段を講じる必要があると強く感じていました。
そうした中、時代は令和となり、コロナ禍を経て子どもたちへの1人1台端末の配布が進みました。この端末を利用できる仕組みがないかと考え、多くの事業者からの説明を聞きながら検討を重ね、匿名相談アプリ「STANDBY」の導入へと至りました。

(※1)LINE相談は個人所有のスマートフォン等により友達登録を行って初めて相談が可能となる仕組み。

ーー 小池:数あるツールの中で、アプリ「STANDBY」を選ばれた決め手は何だったのでしょうか?

片柳:会社の「熱意」です。株式会社スタンドバイとはちょうどLINE相談事業に取り組み始めた頃からのお付き合いで、当時はシステムを導入していないにもかかわらず、事あるごとに勉強会へ声をかけていただき、参加させてもらっていました。
そうした中で、単なる「商品」を売るのではなく、いじめ防止の取り組みがどうして大切なのかなどのポリシーを社会に広めようとする姿勢に共感しました。正直に申し上げますと、「STANDBY」アプリの操作性には改善の余地を感じる点もあります。しかし、それを差し引いても「共に子どもたちを支えるパートナー」としての信頼感を得られたことが大きな決め手です。

具体的なエピソード:可視化された「900件」のメッセージ

ーー 小池:導入後、どのような変化がありましたか?

片柳:もっとも驚いたのは、相談件数の劇的な増加です。導入初日にいきなり100件近い報告や相談が寄せられ、その後も勢いは衰えることなく、半年間で約900件もの声が届く結果となりました。当初は多くても年間100件程度と予想していたため、対応が全く追いつかず、休みを返上して返信しなければならないほどでした。
寄せられる相談の多くは、学校や家庭での日常的なつまずきや悩みごとです。チャットのやり取りの中で、子どもたちが気持ちを前向きに変えていく様子はとても励みになりました。

一方で、私が学校で直接出会う子どもたちは、友達と何気ない会話で談笑し、授業を受けており、一見すると悩んでいるようには見えません。しかし、アプリを通じて届けられる声はまったく別物でした。日常の些細なことから深刻な悩みまで、「こんなにも子どもたちは話したいことがあったのか」と、普段の様子とのギャップに大きな衝撃を受けました。
いじめ予防のために声を拾うことも大切ですが、子どもたちの「誰かに気持ちを伝えたい」というニーズがこれほど多く潜在していたと分かっただけでも、導入の意義があったと実感しています。

今後の展望と課題:匿名相談という新たな可能性の広がり 

ーー 小池:アプリ「STANDBY」の活用を通じて感じる課題と、この先目指していきたい展望をお聞かせください。

片柳:現在、最大の課題と感じているのは「つなぎの支援」をどう考えるかという点です。
匿名相談の中には、重大事態につながりかねないいじめや、リストカットなどの自殺企図、虐待といった、チャットのやり取りだけでは根本解決が難しい深刻なケースも含まれます。対面の相談においても、こうした深刻な相談には一人で抱え込ませないための「つなぎの支援」が必要とされています(※2)。

しかし、1人1台端末による匿名相談は相手が特定できない上、本人が身分を明かして希望しない限り支援につなげられないため、ハードルはさらに高くなります。だからこそ、匿名相談では解決を焦り過ぎない対応も必要だと感じています。匿名相談は、誰にも言えないことを最後の勇気を振り絞って話せる「かけこみ寺」のような存在でもあります。私たち大人が想像している以上に過酷な状況にある子どもたちの思いを受け止めることこそが、匿名相談の役割ではないでしょうか。
相談のやり取りをしている間だけでも、辛い日常から少し離れ、気持ちが安らぐことができれば、それがその子の希望の礎となる可能性が生まれるのです。

また、匿名相談は「本来の相談とはこういうものではないか」と思い出させてくれます。お互いが見えないからこそ、対等な関係で、素の自分を出して相談ができるのです。対面ではつながることが難しい繊細な子どもたちからのアプローチを受けられるのも、この仕組みならではの利点だと感じています。
これ以外にもまだまだ多くのポテンシャルを秘めていると感じており、その魅力をさらに見つけていきたいと考えています。そして子どもにとって、匿名相談の場が学校、家庭に次ぐ「もう一つの大切な居場所」となることを目指して取り組んでいきたいと考えています。その先に子どもたち自らが現実の支援につがなることを信じて。

(※2)参考:こども家庭庁「こどもの自殺対策緊急強化プラン」(令和5年)

インタビューを終えて

今回の取材を通じて、デジタルのツールが、実は最も人間らしい「心の発信」を助けているというパラドックスを強く感じました。京丹後市様の取り組みは、全国の自治体にとって「機能する相談窓口」のあり方を示す先進的なモデルとなるはずです。

-- スタンドバイ 小池

インタビュー実施日:2026年2月5日